旧松永窯の動線

Client / Gatch Co., Ltd.
Location / Namie town, Fukushima
Usage / Exhibition
Architects / Fimstudio
Project Team / Masaharu Watanabe, Takashi Mafune
Constoruction / Fimstudio
Date of completion / February, 2024
Photo / Aoi Yoshino


浪江町井出地区にある大堀相馬焼の窯元、松永窯の旧店舗で行われた展示の会場構成に携わらせていただきました。 この建物自体が震災遺構としての保存も構想されているなかで、震災時から長い時間が経過し、散乱した1階を現状のままでどう残していくかが大きな課題でした。

そこで今回は、あらたにコンクリートブロックを設置することによって、1階の空間を、1段分もちあがった鑑賞者の動線、それ以外を観られるべき対象としてレベルを変えてゆるやかに分節する、という操作をおこないました。 発色のいいオレンジ色の荷締めベルトはブロックの固定、注意喚起、展示順路を導くラインなどの役割になっています。

震災後、帰宅困難区域に指定された同地区は、2023年3月に解除されるまで12年ものあいだ人が立ち入ることができなかったエリアです。 しかし、解除して以来、まわりでは急速に家屋の解体が進んでいます。展示の準備をしていても数多くの工事車両が目の前の道路を通過していきました。 そんな車両が行きかう道路の中央には、見慣れたオレンジ色のセンターラインが引かれています。奇しくも建物のなかでコンクリートブロックを固定しているベルトと同じオレンジ色です。

復興が進み、この地域から多くの建物がなくなっていくなかで、震災や原発事故のある側面は、過去のものとして記憶が薄まって、遠くなっていくような感覚をときどきおぼえます。もしかしたら、それは風化と呼ばれるのかもしれません。 しかし、そのような状況のなかでも、建物の内側に引かれたオレンジ色のラインは、外側にある生活のためのラインとともに、この先も消せない線、消せない記憶として、事故のあった原子力発電所へと日常的につながりつづけているのです。


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